今回は単糖に関連する酸化反応をまとめてみました。これらの反応は糖に関連する反応の中でも基本的なものですので、ぜひ覚えてく観てください。では見てみましょう。

フェーリング反応では酸化銅の赤褐色沈殿を生じる

フェーリング反応
図1.フェーリング反応

 まずは図1にフェーリング反応を記載しています。アルドースやケトースを硫酸銅とアルカリ性下で反応させると銅が還元されて酸化銅(I) が生成されます。実際に反応させると、もともとは青い溶液の硫酸銅が赤褐色の沈殿を生じるとともに溶液の色が透明になっていきます。この反応をフェーリング反応といいます。この反応のポイントはアルカリ性下という点です。実はアルデヒドはアルカリ性下で還元性を発揮しやすくなります。この反応はこの性質をうまく利用しているわけです。なお、単糖は酸化されてアルドン酸に変換されます。

Tollens 試験では銀鏡を生成する

銀鏡反応
Tollens 試験
図2.Tollens 試験

 図2には Tollens 試験を示しています。硝酸銀にアルドースやケトースをアルカリ性下で作用させると銀が還元されて金属銀が析出します。さて、この反応には少しコツがいります。銀をアルカリ性下に置くと酸化銀を生成して銀が沈殿してしまいます。このような状況を避けるためにアンモニアを加えてあげます。すると、最初は酸化銀の沈殿を生じますがさらに添加すると錯体を形成して銀が溶けてくれます(実際にやってみると最初モヤっとした沈殿が生じたのちさらに加えると沈殿が完全に消失して溶解します)。これで反応させることができますね。この反応を実際にしてみると、試験管内部に金属銀が付着して鏡のようになります(銀鏡)。この反応をTollens 試験といいますが、銀鏡が生成することから銀鏡反応とも言います。なお、この場合も単糖は酸化されてアルドン酸に変換されます。

臭化水素ではアルドースしか酸化できない

糖
臭化水素による酸化
図3.臭化水素による酸化

 臭化水素による酸化では、アルドースだけが酸化されて、アルドン酸に変換されます。ケトースは還元を受けません。この差はアルドース中のアルデヒド基の方が還元力が強いため、臭化水素のように比較的弱い酸化剤を使用すると、ケトースは酸化できず、アルドースだけ酸化されます。

ケトースが還元性を示す不思議

 上三つの反応を見ると、なぜ臭化水素の場合だけケトースは酸化されないのかと疑問に思うかもしれません(私はとにかくまる覚えしていたので疑問も感じませんでしたが…)。しかし、実際には本来ケト基は還元力を持たないので、むしろケトースが還元力をもっていることの方が不思議なんですよね。ケトースは塩基性下では図4に示すような反応を介してアルドースと平衡状態を形成します。この反応をケト-エノール互変異性(keto–enol tautomerism)といいます。なお、図4の真ん中2つの構造のことをエンジオールといいます。さて、アルドースは(アルデヒド基を持っていますので)還元性を持っていますから、結果ケトースは還元性を示すことになります。つまり、フェーリング反応やTollens 試験ではアルカリ性下で反応させますよね。ですので、反応させる対象がケトースであってもアルドースが生成されるため還元性を有するのです。

エンジオール
ケトース
アルドース
図4.ケトース・エンジオール・アルドースの平衡

酸化反応による糖鎖の分析

フェーリング反応
Tollens 試験
臭化水素
図5.単糖の酸化反応 まとめ

 さて、これまでの反応を図5にまとめてみました。アルドースやケトースは還元性を示すため還元糖と呼ばれます。フェーリング反応やTollens 試験は還元糖を見分ける際に使用できます(一部のオリゴ糖や多糖などの中には還元性を示さないものもあります)。さらに臭化水素で酸化させてみると、アルドースは酸化されますが、ケトースでは酸化されません。このように、単糖の同定にこれらの反応が利用されることがあります。

 今回は単糖の酸化反応を大まかにまとめてみました。こういう内容は本格的に化学っぽくてちょっと面白いですね。この手の反応は実際にやってみた方が印象に残りやすいのですが、画像検索などで反応の写真を検索してみて反応の前後の様子を見てみるのもいいかもしれませんね。今回の内容はここまでです。読んでいただいてありがとうございました。

参考文献

  1. 島原健三 (1991). 概説 生物化学. 三共出版. pp. 5-34
  2. 2.Jeremy M. Berg, John L. Tymoczko, Gregory J. Gatto Jr., Lubert Stryer著、入村達郎、岡山博人、清水孝雄、中野徹訳 (2018). ストライヤー生化学 第8版. 東京化学同人. pp. 290-313
  3. John McMurry著、伊東椒、児玉三明訳 (2000). マクマリー有機化学 第4版. 東京化学同人. pp. 439-470
  4. K. P. C. Vollhardt, N. E. Schore著、古賀憲司、野依良治、村橋俊一、大嶌幸一郎、小田嶋和徳、小松満男、戸部義人訳 (2020). ボルハルト・ショアー現代有機化学 第8版. 化学同人. pp. 1425-1486

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