脂質にはリン酸や糖質など他の成分を含む複雑な脂質もあります。これらの脂質は生体内で特別な機能を有している場合も多く、生化学でも重要な物質の一つです。そこで、今回はこれらの複雑な脂質の種類、構造や特徴を紹介していこうと思います。
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複合脂質の種類は何がある?
複合脂質は脂質に何を含有するかによるかによって分類されます。主な分類は以下の通りです。
- リン脂質(phospholipid)
リン酸を含む - 糖脂質(glycolipid)
糖を含む - スフィンゴ脂質(sphingolipid)
グリセリンの代わりにスフィンゴシン(sphingosine)を構成単位とする
大雑把な分類を示しましたが、実際にはリン脂質や糖脂質についてもグリセリンの代わりにスフィンゴシンが構成単位になっているものもあります。
グリセリンを基本骨格にもつリン脂質、グリセロリン脂質
グリセロリン脂質がどういった化合物なのか、単純な構造から順を追ってみていきましょう。まず、グリセリン骨格の3位にリン酸が結合した物を sn-グリセリン-3-リン酸(glycerol-3-phophate)といいます(図1左上)。この構造のフリーの水酸基にアシル基がエステル結合すると図1の右上のような構造になりますね。これが 3-sn-ホスファチジン酸(3-sn-phosphatidic acid;またはホスファチジン酸;phosphatidic acid)と呼ばれる構造です。 この構造のリン酸の水酸基にアルコールがエステル結合すると図1の左下のような構造になります。このような構造をグリセロリン脂質(glycerophospholipid)あるいは単にリン脂質といいます。なお、ホスファチジン酸とグリセロリン脂質がリン脂質に当たります。
グリセロリン脂質は動植物で豊富に存在するリン脂質で、様々な種類が存在ます。図2に代表的なリン脂質を示しています。ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリンは脂肪酸部分にオレイン酸 (C17H33COOH)、パルミチン酸 (C15H31COOH) が含まれています。エスファチジルイノシトールの場合はこれがパルミチン酸 (C15H31COOH)、アラキドン酸 (C19H31COOH) が含まれています。ところで、ホスファチジルコリンはレシチンとも呼ばれます。卵に多く含まれ、乳化剤としてよく利用されます。マヨネーズの乳化剤はまさしくこれです。
ホスファチジルコリンのようなリン脂質は原形質膜の二重層を形成します。リン脂質の二重層構造を図3に示しています。リン脂質はリン酸やコリンの部分が極性を持っていて親水性です。一方でアシル基部分は疎水性です。このような分子が水中にいると(疎水性同士は引き合うので)アシル基同士が集まり、(親水性同士は引き合うので)外側にリン酸やコリンのような親水性部分が向いて整列します。その結果図3の右に示したように二重層構造を形成します。これがリン脂質の二重層構造です。細胞の原形質膜はこのような構造で膜を形成しています。
ところで、ちょっと前に脂肪酸によるミセル形成について紹介しました(「脂肪酸とアルコールのエステル、中性脂質とろう」)。その場合は球形に集まっていました。でもリン脂質の場合は二重層構造をとるので球形にはなりません。これはリン脂質のアシル基が二つあるためかさが高く立体的に邪魔になるため球形に並ぶことができないためです(図4)。
基本骨格がグリセリンではない脂質、スフィンゴ脂質
これまでは基本骨格がグリセリンの脂質ばかりを紹介してきました。ここでは基本骨格がグリセリンではない脂質を紹介します。それがスフィンゴ脂質 (sphingolipid) です。この脂質はスフィンゴシン (sphingosine) が基本骨格です(図5上)。スフィンゴシンの1~3の番号を振った炭素に注目してください。ここの構造だけを見るとグリセリンに似ていますね。ただし2位の水酸基がアミノ基になっています。このうち1位の水酸基と2位のアミノ基にいろいろな分子がエステル結合します。ここまではグリセロールを基本骨格とするほかの脂質同じようですが、3位の位置に -CH=CH-(CH2)12-CH3 が結合しています。こうしてみると少し見やすくなるかもしれませんね。具体的な構造を図5の下に示しています。多くのスフィンゴ脂質ではスフィンゴシンのアミノ基にアシル基がエステル結合しています。この構造をセラミド (ceramide) といいます。スフィンゴミエリンではこのセラミドの1位の水酸基にリン酸とコリンが結合しています。このスフィンゴミエリンは脳や腎臓、その他の臓器で生体膜の成分として含まれています。
生体膜を構成する主要な脂質の一つ、糖脂質
糖脂質はその名の通り、糖(あるいは糖鎖)が結合した脂質のことを言います。糖脂質にはスフィンゴシンを基本骨格とするスフィンゴ糖脂質 (glycosphingolipid) とグリセリンを基本骨格とするグリセロ糖脂質 (glyceroglycolipid) があります。それぞれの特徴を以下に記載します。
- スフィンゴ糖脂質 (glycosphigolipid):
- スフィンゴシンを構成単位とする
- 動物の細胞膜表面に存在
- 細胞の分化、増殖、識別に重要
- グリセロ糖脂質 (glyceroglycolipid):
- グリセリンを構成単位とする
- ジグリセリドの水酸基に糖残基がリン酸を介して又は直接結合
- 植物の葉緑体、細菌の細胞膜に多い
- 動物の神経細胞、精細胞にもみられる
図6にスフィンゴ糖脂質とグリセロ糖脂質の例を示しています。
ガラクトセレブロシドはスフィンゴ糖脂質の例ですが、セラミドにガラクトースが結合しています。このようにガラクトースかグルコースが1残基だけ結合したものをセレブロシド (cerebroside) といいます。
α-D-ガラクトシルジアシルグリセロールはグリセロ糖脂質の例ですが、ジグリセリドにα-D-ガラクトースが結合しています。この構造ではグリセリンが基本骨格となり、フリーの水酸基に単糖が結合した構造をしています。
今回は複合脂質についてまとめてみました。複合脂質はその複雑さからいろいろな生理的役割を担っているものも多くあります。例えば(美容に関心のある方は聞いたことがあるかと思いますが)セラミドのように皮膚の保湿とバリアを担っています。ここに紹介した内容は基礎的な内容だけですので、もし興味を持たれた方は調べてみてはいかがでしょうか?最後まで読んでいただいてありがとうございました。
参考文献
- 島原健三 (1991). 概説 生物化学. 三共出版. pp. 67-84
- Jeremy M. Berg, John L. Tymoczko, Gregory J. Gatto Jr., Lubert Stryer著、入村達郎、岡山博人、清水孝雄、中野徹訳 (2018). ストライヤー生化学 第8版. 東京化学同人. pp. 314-322