今回はヘミアセタール・へミケタールについて書いていきたいと思います。ちょっと難しいイメージも持たれがちなヘミアセタール、でもなぜこのような現象が起こるのかメカニズムからきっちり理解していたら怖がることもありません。ここでは実験的な現象からメカニズムまで紹介していきますので、きっちり理解していきましょう!
Contents
比旋光度
本題に入る前に比旋光度について確認していきたいと思います。
光の振動方向は試料溶液を通ると回転する
光は通常、様々な振動方向を持つ光が混ざっています。偏光子は特定の振動方向を向いている光だけを通すことができる素子のことを言います。図1では光源から出た光が偏光子を通ることで特定の振動方向をもつ光だけが通り抜けて、試料管に到達します。試料管内には測定したい試料を溶かした溶液が封入してあります。この中を通って出てきた光を検出するのですが、この時にもう一つ偏光子を用意しておきます。普通に考えれば、試料管に入る前の偏光子と同じ角度の時に光が透過して出てくるはずですよね?ですが、実際には図1に示すように偏光子を少し回転させてやらないと光が透過せず検出できないのです。この現象は試料管を通り抜けることで光の振動方向が少し回転していることを表します。このように光の振動方向を回転させる性質のことを旋光性といい、偏光子を回転させた角度を旋光角といいます(図1では α であらわしています)。実はこの現象、有機化学ではとても重要な現象です。というのも立体異性体を見分けるのに有力な手法だからです。通常、立体異性体は化学的性質が同一であることも珍しくなく、見分けるのがとても難しいのです。ところが旋光性を利用すると、立体構造が異なると旋光角も変化しますので見分けることができるというわけです。
立体構造の違いを比旋光度で見分けることができる
旋光角は試料の濃度や試料管の長さに比例しますので、旋光角で比較しようとすると、同じ物質でも実験条件によって数値が違ってしまいます。これではわかりにくいですよね。ということで通常、このような実験で結果を比較する場合には比旋光度を利用します。比旋光度は上の式で算出します。
さてこの時 [α] の右上に書いた数値は測定したときの温度を表します。下は使用した光源を表しています。Dは “ナトリウムのD線” という意味です。
比旋光度は各化合物の立体異性体ごとに特有の値を示しますので、比旋光度を見ることで、立体構造の違いや変化を見分けることができるというわけですね。
変旋光と環状構造・鎖状構造
糖は溶解して放置すると比旋光度が変化する
D-グルコースは冷エタノールから析出させてから水に溶解させて比旋光度を測定すると 112.2° になります。一方で、熱ピリジンから析出させた場合に同様のことをすると、比旋光度は 18.9° になります。ところが、いずれの場合も溶液の状態で放置しておくと、比旋光度が徐々に変化して最終的に 57.2° になって落ち着きます。この現象を変旋光といっています。この現象について少し考察していきます。変旋光は比旋光度が変化することから立体構造が変化していることを意味しています。それが 57.2° で落ち着くということは、元々、112.2° だったり、18.9° を示すような構造を持つ物質だったものが、57.2° の比旋光度を持つような状態になって落ち着くことを意味しています。
実はこの現象、図3のような平衡を形成することで起こるのです。冷エタノールから析出したものは図3のα-D-グルコース (左端) になります。一方で熱ピリジンから析出した場合β-D-グルコース (右端) になります。この二つのD-グルコースは右端の水酸基が下についているか、上についているかが異なります。この違いが比旋光度の違いを生んでいるわけです。この二つの構造はいったん鎖状構造を挟んで互いを行ったり来たりします。この反応は最終的に互いの反応速度がバランスして見た目上α-D-グルコース、鎖状の D-グルコース、β-D-グルコースの濃度が変化しなくなります。この状態を平衡状態といいます。この時の比旋光度は 57.2° となるわけです。
ちょっと長くなり過ぎたので、今回はいったんここで記事を終わりにしようと思います。次回は、環状構造と鎖状構造の平衡反応が発生するメカニズムについてみていきたいと思います。それではお疲れさまでした。
参考文献
- 島原健三 (1991). 概説 生物化学. 三共出版. pp. 5-34
- 2.Jeremy M. Berg, John L. Tymoczko, Gregory J. Gatto Jr., Lubert Stryer著、入村達郎、岡山博人、清水孝雄、中野徹訳 (2018). ストライヤー生化学 第8版. 東京化学同人. pp. 290-313
- John McMurry著、伊東椒、児玉三明訳 (2000). マクマリー有機化学 第4版. 東京化学同人. pp. 439-470
- K. P. C. Vollhardt, N. E. Schore著、古賀憲司、野依良治、村橋俊一、大嶌幸一郎、小田嶋和徳、小松満男、戸部義人訳 (2020). ボルハルト・ショアー現代有機化学 第8版. 化学同人. pp. 1425-1486
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