解糖系の基本的な経路は「解糖系(glycolysis)によって糖からエネルギーを取り出しATP を生成する」で記載しています。ところでグルコース以外の糖は利用できないの?と疑問に思った方もいるのではないでしょうか?もちろんグルコース以外の糖だって解糖系で利用する経路は存在します。そこで今回はグルコース以外の糖の利用について解説します。

グルコース以外の糖はどうやって利用する?

 これまで示してきた解糖系では出発物質は必ずグルコースでした。でも、摂取する糖は他にもいろいろありますよね。グルコース以外の糖が摂取された場合どのように利用されるのでしょうか?この章ではグルコース以外がどうやって解糖系で利用されるかについて解説します。

図1.様々な糖の解糖系への流入経路
赤枠:解糖系(の一部) 青:グリコーゲンの流入経路 黄:ガラクトースの流入経路
紫 :マンノースの流入経路 緑:フルクトースの流入経路 赤:グリセロールの流入経路

グリコーゲンはグルコースの重合体。グルコースが切り出されて利用される

 まずはグルコースの貯蔵分子であるグリコーゲンです。この経路は単純ですね。まずグリコーゲンの非還元末端(4位の炭素が末端になっている側、図2)から切り出されると同時に無機リン酸によって1位の水酸基がリン酸化されます。この反応を加リン酸分解(phospholysis)といいます。こうして得られたグルコース-1-リン酸はグルコース-1,6-ビスリン酸を経てグルコース-6-リン酸に変換されます。この分子は解糖系の2番目の分子ですね(図1)。

図2.グリコーゲンの利用。グルコースの切り出しと解糖系への流入

ガラクトースの流入はグルコースを介して行われる

 ガラクトースの経路は少し複雑です(図3)。まず、ガラクトースが ATP を消費してリン酸化され、ガラクトース-1-リン酸に変換されます。ガラクトース-1-リン酸と UDP-グルコースがリン酸基と UDP を交換して UDP-ガラクトースになります。UDP-ガラクトースは異性化して UDP-グルコースに変換され、この UDP-グルコースとガラクトース-1-リン酸が UDP とリン酸基を交換します。実はこの反応、ガラクトース-1-リン酸→ UDP ガラクトースの反応と共役しています。産生されたグルコース-1-リン酸がグルコース-6-リン酸に変換されるのはグリコーゲンの流入経路の通りです。なお、UDP というのはウリジン二リン酸(uridine diphosphate)の略称です。一例として UDP-グルコースの構造を右上図に示します。

図3.ガラクトースの流入経路
経路の順番を赤矢印で示している

マンノースは異性化してフルクトースとして解糖系に流入する

 マンノースは ATP を消費してリン酸化を受け、マンノース-6-リン酸になります。その後、異性化してフルクトース-6-リン酸に変換されて解糖系に流入します。異性化の過程はケトエノール互変異を介した異性化ですね。この反応はグルコース-6-リン酸からフルクトース-6-リン酸への異性化と同様の反応です。実はマンノースがケトエノール互変異を介して異性化するとグルコースと同様にフルクトースになります(図4)。

図4.マンノース-6-リン酸の異性化

フルクトースは二通り流入経路が存在する

 フルクトースは肝臓においてリン酸化されてフルクトース-1-リン酸に変換されたのち、開裂してグリセルアルデヒドとジヒドロキシアセトンリン酸が産生されます。グリセルアルデヒドはさらにリン酸化を受けてグリセルアルデヒド3リン酸に変換されて解糖系に流入します(図5)。

図5.フルクトース-1-リン酸の開裂

 植物ではフルクトースがリン酸化を受けて、フルクトース-6-リン酸に変換されて解糖系に流入します(図1)。

グリセリンは酸化されてジヒドロキシアセトンに変換されて流入する

 グリセリンの流入経路は単純で、まずATPを消費してリン酸化を受けてグリセロール-3-リン酸になり、酸化されて2位の炭素がカルボニル基に変換され、ジヒドロキシアセトンリン酸になります(この反応は単純なアルコールの酸化です)。こうしてグリセリンは解糖系に流入します(図1)。

 今回はグルコース以外の糖の利用についてまとめてみました。解糖系はグルコースが出発点となっていますが、解糖系で利用される糖はグルコースに限りません。これらの糖が解糖系に流入する仕組みはとても合理的ですね。こういった合理性を楽しんでいただけたら嬉しいなと思います。それでは、最後まで読んでいただいてありがとうございます。

参考文献

  • 島原健三 (1991). 概説 生物化学. 三共出版. pp. 151-162
  • Jeremy M. Berg, John L. Tymoczko, Gregory J. Gatto Jr., Lubert Stryer著、入村達郎、岡山博人、清水孝雄、中野徹訳 (2018). ストライヤー生化学 第8版. 東京化学同人. pp. 416-442
  • John McMurry著、伊東椒、児玉三明訳 (2000). マクマリー有機化学 第4版. 東京化学同人. pp. 365-367, 546-551 Paula Y. Bruice 著、大船泰史、香月勗、西郷和彦、富岡清訳 (2016). ブルース有機化学概説 第3版. 化学同人. pp. 678-729

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