皆さんは溶解性を表す表現を見たことはないでしょうか?試薬メーカーで試薬を調べたりすると溶解性の表現で「難溶」とか「易溶」といった表現を見かけることでしょう。たとえば「易溶」という表現、いったいどれくらい溶けるのかよくわからないことはないでしょうか?私は”よく溶けるのはわかるけど、どれくらい溶けるものなの?”と疑問に思っていました。今回は溶解性の表現について少し紹介していこうと思います。
日本薬局方 (Japanese Pharmacopoeia) による規定
溶解性は物質を同定する重要な特性の一つです。そのため、いくつかの規格基準書で水、アルコール、有機溶媒など様々な溶媒に対する溶解性が特性の一つとして規定されています。例えば、水に溶けやすい物質は極性を持つ場合が多く、一方で無極性溶媒(極性を持たない分子で成り立っている溶媒)に溶ける物質は極性を持たないものが多いです。このように、物質の特性を示す上で重要な指標となります。ここでは日本薬局方(日局)を例にとってみます。日局は医薬品の規格基準書です。医薬品の品質保持のためには、適正な試験方法で行われた試験で適正な規格を満たしている必要があります。そのため、法律によって規格基準書を定めることが決められています。この中で、「溶解性は,・・・医薬品を固形の場合は粉末とした後,溶媒中に入れ,20±5℃で5分ごとに強く30秒間振り混ぜるとき,30分以内に溶ける度合をいう.」と規定されています(なお、溶質の量は常温で固形の場合は 1 g、液体の場合は 1 mL と決められています)。この中で、溶解性は「極めて溶けやすい」「溶けやすい」「やや溶けやすい」「やや溶けにくい」「溶けにくい」「極めて溶けにくい」「ほとんど解けない」の七段階で規定されています(図1)。このような溶解性は医薬品にとってその主成分を生物が効率的に取り込めるのかに重要な特性でもあります。
慣習的な表現
公的な表現とは別に慣習的な表現も使われることがあります。この表現は公的に決められたものではないのではっきりとした定義があるわけではないのですが、大まかには決まっています。東京化成工業 (TCI) のホームページで紹介されていますので参考にしてみてください。さて、慣習的には「易溶」「可溶」「微溶」「難溶」「不溶」の5段階で表現されています。日局の評価との対応関係を確認してみると「易溶」は「極めて溶けやすい」「溶けやすい」、「可溶」は「やや溶けやすい」、「微溶」は「やや溶けやすい」、「難溶」は「溶けにくい」、「不溶」は「極めて溶けにくい」「ほとんど解けない」にそれぞれ対応しています。これらの溶解性はバッファー系を組む場合にもとても参考になりますので、ぜひ参考にしてみてください。
参考文献
厚生労働省. 日本薬局方 (厚生労働省告示第220号), pp. 4
東京化成工業株式会社HP. 製品詳細の凡例. (https://www.tcichemicals.com/JP/ja/product-details-usage)