単糖は複数が結合することでオリゴ糖や多糖を形成することを以前お話ししました。ところでこの配列を α-ガラクトース-α-グルコース-β-フルクトースという感じで書いてしまうと、分子名が長いし、 α 体か β 体かも記載しなければならずわかりにくいですよね。さらに糖鎖は常に同じ水酸基で縮合するわけではなく、どの位置の水酸基が脱水縮合するのかによっても物質が変わってしまいます。ですので、配列を記載する場合はこれらの情報を盛り込んだうえで簡単に記載する必要があります。表現することが多くて大変ですよね。さて、このような記載については記載方法がありますので、今回は糖鎖配列の記載方法についてお話していこうと思います。

糖配列は略記を使ってスマートに

まず、各単糖については三文字表記を使用して記載します。三文字表記というのは、その名の通り各単糖を 3 文字であらわす表記方法のことを言います。例えばグルコースでは Glc、ガラクトースなら Gal などです。したがって β-D-ガラクトースなら “β-D-Gal” という風に記載しましょう。具体的な記述方法は次回、紹介しようと思います。
 ところで、環状の単糖はピラノースとフラノースに分類されるのでした。これらのを表現するのに p(ピラノース)、f(フラノース)を使用します。例えば D-グルコピラノースは “D-Glcp” D-フルクトフラノースは “D-Fruf” と記載します。
 最後に脱水縮合している水酸基の位置は “1→4″ という具合に表します。”1→4” と表す場合、1 位の水酸基と次の分子の 4 位の水酸基が縮合していることを表現しています。

図1.ラクトースの糖配列表記

  さて、表記方法を確認したところで実際に記載してみましょう。図1を見てください。ここではラクトースの構造を記載しています。ラクトースは β-D-ガラクトースの 1 位の水酸基と D-グルコースの 4 位の水酸基が脱水縮合して結合しています。なお、グルコースはヘミアセタール水酸基がフリーなので α 体も β 体も取りえます。さて、これを表現してみましょう。
 表記法1:β-D-Galp-(1→4)-D-Glcp
 表記法2:β-Gal-(1→4)-Glc
となります。表記法1は省略なしで書いたバージョンです。表記法2はさらに省略したバージョンです。ガラクトースやグルコースはピラノースしかとらないので “p” を省略しています。さらに天然の糖はほとんどが D 体ですのでこれも省略します。結果、β-Gal-(1→4)-Glc となります。

 もう一つ例を見てみましょう。図2にスクロースの構造を記載しています。この分子は α-D-グルコースの 1 位の水酸基と β-D-フルクトースの2位の水酸基が脱水縮合して結合しています。これを表現すると
 表記法1:α-D-Glcp-(1→2)-β-D-Fruf
 表記法2:α-Glc-(1→2)-β-Fru
となります。

 いかがでしょうか?糖鎖の名前や結合の様式などを並べ立てて記載するよりはよほどわかりやすいですね。次回は三文字表記について詳細に書いていこうと思います。ここまで読んでいただいてありがとうございました。

参考文献

  1. 島原健三 (1991). 概説 生物化学. 三共出版. pp. 5-34
  2. 2.Jeremy M. Berg, John L. Tymoczko, Gregory J. Gatto Jr., Lubert Stryer著、入村達郎、岡山博人、清水孝雄、中野徹訳 (2018). ストライヤー生化学 第8版. 東京化学同人. pp. 290-313
  3. John McMurry著、伊東椒、児玉三明訳 (2000). マクマリー有機化学 第4版. 東京化学同人. pp. 439-470
  4. K. P. C. Vollhardt, N. E. Schore著、古賀憲司、野依良治、村橋俊一、大嶌幸一郎、小田嶋和徳、小松満男、戸部義人訳 (2020). ボルハルト・ショアー現代有機化学 第8版. 化学同人. pp. 1425-1486

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みにらぼ

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