前回、酸化物と還元物について紹介しました。今回はそのほかの誘導物について紹介しようと思います。

糖とアルコールを縮合するとグリコシドが生成される

グリコシド生成
図1.グリコシド生成

 酸性化で糖とアルコールを反応させると図1のように糖とアルコールの縮合体が生成されます。この時、ヘミアセタール水酸基が最も反応性が高いため優先的に縮合します(グリコシド)。このような化合物は縮合した炭素鎖に続けて糖の名前を並べます。ただし、糖の名前の語尾はグリコシドであることを表すため~シドにします。例えば、図1の例では縮合した炭素鎖は炭素1個ですのでメチル基です。これにα(または β)D-グルコースを続けますが、グルコースの語尾を~シドに変えて、グルコシドにします。したがってメチル-α (又は β) -D-グルコシドとします。なお、糖に由来しない部分(今回はメチル基ですね)のことをアグリコンといいます。
 グリコシドはヘミアセタール水酸基がブロックされてしまいます。そのため開環して鎖状構造をとることができません。ということはアルデヒド基が生成されなくなるため還元性が発揮されなくなります。ということでフェーリング反応や Tollens 試験が陰性になります。

糖のエーテル化、エステル化

糖のエーテル化、エステル化
図2.糖のエーテル化、エステル化

 糖をメチル化剤で処理すると、すべての水酸基がメチル化されます。こののち、酸で処理するとヘミアセタール水酸基だけが加水分解されます。すると、グリコシドと真逆の構造を持つ化合物が生成されます。一方で酸と反応させると、すべての水酸基がエステル化されます。このように、単糖もエーテル化、エステル化することが可能です。

グルクロン酸の合成

グルクロン酸の生成
ウロン酸の生成
図3.グルクロン酸の生成手順

 さて、これまでいろいろな反応を見てきましたが、実際にどのような応用があるのでしょうか?一つだけ紹介してみようと思います。ところで、「単糖の酸化物(アルドン酸、アルダル酸、ウロン酸)と還元物(糖アルコール)」という記事の中で疑問を持った方もいるかもしれませんが、ウロン酸を生成する場合、普通に酸化するとアルデヒド基の方が反応性が高いのでアルドン酸が優先的に産生されるはずです。ではどうやってウロン酸を生成するのでしょうか?その答えを図3に示しています。この手順では、グルコースをグリコシドに変換します。このステップが一連の反応のポイントです。こうすることで開環しなくなるのでアルデヒド基がマスクされて(隠されて)しまいます。この状態で酸化してあげるとアルデヒド基の酸化は起こらず、6位の水酸基だけが酸化されます。最後に酸で処理してあげると、ヘミアセタール水酸基は加水分解することができますので、加水分解されてグルクロン酸が生成できるというわけです。よくできているますよね。
 ところでそこまでしてグルクロン酸を作るのはなぜでしょうか?実はグルクロン酸は優れた特性を二つ持っています。グルクロン酸にはカルボキシル基や水酸基など親水性の高い置換基がたくさんついているため、グルクロン酸は親水性がとても高い物質です。このような物質は疎水性の物質と結合させることで相手の化合物の親水性を上げることができます。例えば薬効が高い物質があっても疎水性が高いと投薬しにくくなります。そこでグルクロン酸を結合させることで親水性を高めることで投薬効率を上げることができるというわけです。そうなるとグルクロン酸が結合させやすくないと具合が悪いですよね。でもグルクロン酸のヘミアセタール水酸基は反応性が高く、縮合させやすい構造です。このような優れた特性のためグルクロン酸は応用性の高い物質です。

そのほかの特殊な糖について

図4.グルコサミンの構造(上)とデオキシリボースの構造(下)

 以下は特殊な糖について簡単に説明します。
 水酸基のいずれかがアミノ基で置換されている糖をアミノ糖といいます。命名法は語尾を~アミンにします。代表的な例はグルコサミンでしょう。
 水酸基 (-OH) が水素 (-H) で置換されている糖をデオキシ糖といいます。脱(デ)酸素原子(オキシ)と覚えれば覚えやすいと思います。代表例はデオキシリボースでしょう(図4)。

 以上、今回は単糖から誘導される様々な誘導体を紹介してきました。糖の誘導体にはほかにもビタミンCで知られるアスコルビン酸など生体にとってもとても重要な物質がたくさん含まれます。単糖というもっとも単純な糖でも様々な重要な物質と関連があるのです。これだけでも糖が様々な広がりを内包する学問分野であることがうかがえますね。

参考文献

  1. 島原健三 (1991). 概説 生物化学. 三共出版. pp. 5-34
  2. 2.Jeremy M. Berg, John L. Tymoczko, Gregory J. Gatto Jr., Lubert Stryer著、入村達郎、岡山博人、清水孝雄、中野徹訳 (2018). ストライヤー生化学 第8版. 東京化学同人. pp. 290-313
  3. John McMurry著、伊東椒、児玉三明訳 (2000). マクマリー有機化学 第4版. 東京化学同人. pp. 439-470
  4. K. P. C. Vollhardt, N. E. Schore著、古賀憲司、野依良治、村橋俊一、大嶌幸一郎、小田嶋和徳、小松満男、戸部義人訳 (2020). ボルハルト・ショアー現代有機化学 第8版. 化学同人. pp. 1425-1486

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